エール・フランス事件

エール・フランス事件

東京高裁判決 1974年8月28日

上来判示の事実関係によれば、控訴人の為した本件解雇予告の意思表示は、契約関係を完全に終了せしめる通常のそれとは異り、もし被控訴人らにおいて新契約の締結に応ずるときは、旧契約の終了と同時に直ちに新契約に移行することを前提とするものであり、しかも前認定のとおり、右両契約は、その雇用地及び配属先を異にする点以外は、その勤務内容等において本質的な意味での差異はなく、右両者間の決定的な相違点は結局するところ、被控訴人らのベースが東京かパリかという一点に帰着するものとみるのが相当である。
 してみると、これを実質的に考察するときは、本件解雇予告の意思表示は、恰もパリへの配置転換命令に対する承諾を解除条件とする解雇予告のそれに等しく、換言すれば、右命令に応じないことに因る予告解雇と同一に論ずるのを相当とするものである。
 (中 略)
 ところで、企業における労働者の配置転換については、その雇用契約において配置場所が明定されている場合には、使用者は当該労働者の同意なくしてこれを配転し得ない(逆にいえば労働者は右配転命令に応ずる法的な義務を有しない)のを本則とするものと解すべきであり、従って特段の事情があれば格別、然らざる限り、使用者が右の如き配転命令を発し、これに従わない労働者をそのゆえをもつて予告解雇に付するが如きは、通常、解雇権の濫用として無効たることを免れないものというべきである。
 これを本件についてみるに、前判示のとおり、控訴人と被控訴人らの雇用契約においては「雇用地を東京、配属先を日本支社」とすることが明定されているのであり、しかも被控訴人らの職種がスチユワーデスであっていわゆる幹部職員ではないことからみて右文言を広義弾力的に解釈することは当を得たものとはいえない。
 (中 略)
 従って控訴人は元来被控訴人らに対し、その意に反して東京以外の地への配置転換を命じ得ない筋合であるにもかかわらず、控訴人が実質的配置転換を命じ、これに従わない被控訴人らをその理由で予告解雇に付したものとみるべきことは上述のとおりであるから、控訴人の右解雇予告の意思表示を予告解雇権の濫用とする被控訴人らの主張は一応理由があるものといえる。
 以上によると、控訴人が被控訴人らに対し、東京ベースの合意に反して為した本件配転命令(形式上は旧契約終了の通告と新契約締結の申込)につき、これを適法有効ならしめる特段の事情は遂にこれを認めることができないから、右配転命令の拒否をその実質的理由とする本件解雇予告の意思表示は、予告解雇権の濫用として許されないものといわなければならない。

徳山曹達事件

徳山曹達事件

山口地裁判決 1976年2月9日

労働判例252号63頁

債権者と債務者会社との間の本件労働契約において、将来の勤務場所について特段の合意がなされたことについては、これを認め得る資料がなく、《証拠略》によれば、債務者会社と債権者が加入しているA労働組合との間に締結されている労働協約四四条一項には「会社は業務の都合により組合員に……転任を命ずることがある。」とあり、また、債務者会社の就業規則八条には「会社の都合で人事の異動を行なうことがある。この場合正当な理由なしでこれを拒むことはできない。」と定められているから、右労働協約と就業規則の趣旨に照らし、本件労働契約においては、債権者は、債務者に対し、業務上の必要により、勤務場所の変更を伴う配置転換を行う権限を委ねたものと解すべきである。
 しかしながら、一般に、労働契約において、給付の目的たる労務は、労働者の人格と切り離すことのできないものであり、継続的な債権債務の関係であることに鑑み、また、勤務場所は、労働者の生活の本拠と密接不可分の関係にあり、重要な労働条件でもあるから、使用者は、たとえ、右のような権限に基づいて、業務上の必要により、労働者に転勤を命ずる場合であっても、常に無制約に許されるものと解すべきではない。殊に、労働者が長年同一場所に勤務して相当の成績をあげているとき、その勤務場所を遠隔地に変更する場合には、使用者としては、客観的に余人をもって代え難い場合でない限り、当該労働者の同意を得る必要があると解するのを相当とする。
 (中 略)
 債権者は、昭和二九年三月入社以来、本件配転に至るまで、一貫して徳山市の債務者会社本社に勤務し、研究部研究員、薬品課係員、検査課係員としての業務経験を積み、特に資料の調査、整理等にすぐれた能力を認められていること、そして、本件配転問題以外に、債務者会社の業務の運営上、特に債権者を他の職場に移さなければならない必要は認められないこと、しかも、本件配転による債権者の担当業務が必ずしも同人でなければならないほど特種なものと思われないこと、本件配転による転勤場所が東京のような遠隔地であること、そして、本件配転によれば、債権者としては、妻に養母の世話をさせるため、夫婦が別居を余儀なくされ、精神上ならびに経済上顕著な不利益を蒙ることが認められる。このような場合には、債務者は、本件配転について債権者の同意を得なければならないものと解する。
 しかるに、疎明資料によれば、債権者は、事実上、本件転勤命令に応じて赴任し、その職場に従事してすでに数年を経過したことがうかがわれるけれども、本件配転に対しては、当初から異議を留め、その後も機会ある毎に本件配転の不当を訴え続けていることは明らかである。なるほど、債務者は、本件配転にあたって債権者のため種々配慮するところがあったとはいうものの、本件配転について、事前に債権者の意向を尋ねるようなことがなく、債務者側においては、すでに決定済のこととして、専ら、一方的に説得に当ったことが疎明され、未だに債権者の同意を得るに至らない以上、結局、本件転勤命令は、債務者の人事権の濫用として無効であるといわなければならない。

武田薬品工業事件

武田薬品工業事件

大阪地裁決定 1976年2月7日

労働判例245号45頁

以上認定の各事実によれば本件配転は会社が昭和四七年以降進めてきた研究部門の人員削減、営業部門ヘの重点的配置方針の一環としてなされた人事異動の一部であって、剤研における処遇上頭打の状態に達していた申請人を他部門に移して昇進の道を開かせようとの配慮から営業職とはいっても純然たる営業マンではなく従来の業務との関連性の認められるテクニカルサービスマンとしてその家庭事情をも斟酌して決定されたものであって、昭和四八年当時会社のおかれた状況下においては右の一般的人事異動方針の必要性は認められ、またその関連人事異動の一部として申請人を人選したことの合理性も一応認められるといわざるをえない。
 (中 略)
 以上の次第であって本件配転命令の決定的原因は申請人の思想信条それ自体にはなく会社の合理性をもった業務上の必要性にあったといわざるをえない。
 しかし労働契約において職種特定の合意が成立しているとみうるのは自動車運転手、看護婦等の様に一定の技能、技術、資格を有することが雇傭契約の条件になっている場合、あるいはその職場において規定若しくは慣例上それらの者を特別の職種としている場合は別として単に一定期間同一の職種についていたというだけでは職種が特定しているとはいえないと解するのが相当であるところ、疎明によっても会社申請人間に右の職種特定の合意が成立したことの証拠はなく却って会社の社員就業規程第一〇三条には、「社員には業務の都合により異動を命ずる。前項の異動とは所属事業場所属部、課、係等の変更若しくは諸官庁、関係会社等えの出向又はそれらからの復帰をいう。」との規定があり、会社、組合間に締結された労働協約においても組合はその二〇七条で各組合役員(本部支部三役、執行委員、会計監査)については事前に協議しその諒解を得るとする外、二〇五条で会社の組合員に対する任免、異動を認めていて規定上は会社に包括的な人事権がある様に定められてをり、事実上も会社は医薬部門から出発して之に関連する周辺部門として食品添加物、化学品等の新規事業部門えと事業範囲を拡大してきた経緯からして各部門間の人事交流の必要があったところから自動車運転手、タイピスト、看護婦等特定の業務にのみ従事する者を除き職種を特定して従業員を雇傭したことはなく右の各部門間の異動は頻繁に行われてきたし、担当期間技能職の業務に従事してから営業や事務関係業務に変った例も相当数あること等の各事実が一応認められるのであって、右事実からすれば申請人会社間の雇傭契約においては当初から職種特定の合意があったと認め難いのみならず黙示の職種特定の合意の成立も認め難く申請人は会社の前記包括的人事権の行使に従う義務があるといわざるをえず、本件においては技能職から営業職への変更に加えて医薬品関係から食品営業関係えの変更が重っている為変更の程度が大であるがだからと言ってその故に本件配転命令が労働契約に違反するということはできない。思うに従業員の配置転換はそれが労働契約、労働協約、就業規則その他労働関係法令に反しない限り人事権の行使として原則として使用者の裁量に委ねられているものであるが、只それが使用者の恣意により合理的必要がなくてなされた場合、あるいは他の意図を以て本来考慮に入れるべきでない事項を考慮に入れてなされた場合には人事権を濫用したものとして当該配転は無効となるものと解すべきところ、本件配転が合理性をもった業務上の必要性に基づくもので差別扱や見せしめ的人事とは認め難いこと、および業種の変更(当然に業務内容の変更を含む。)も従業員として受忍すべき包括的人事権の行使の範囲内のものであることはさきに説示したとおりであり、申請人が配転後の業務につくにおいては通勤に多少の時間がとられることと業務の性質上出張が多少多くなることが疎明されるが新旧両業務とも大阪市内のさして離れていない場所での勤務で通勤にさしたる苦痛を感ずるという程でもないし出張が多少あるといっても申請人の活動に取立てて支障を来す程のものとも認め難いのでその程度の相違は何ら「重大な労働条件の変更」というをえないし、申請人が入社以来一三年余研究補助業務に従事してきた関係上テクニカルサービスマンとはいえ営業関係業務に変ることに不安を感ずるであろうことも推認するに難くないがしかしテクニカルサービスマンの業務も誰かが担当しなければならないものであってみれば申請人に之が命ぜられたからといってその為に申請人の人格が著るしく傷つけられたとはいえない。

龍角散事件

龍角散事件

東京高裁判決 1975年12月22日

時報811号108頁

「控訴人の所属していた製造部製造二課第一係では従来から痰、咳用の薬剤であるAと顆粒状のBの製剤を担当していたところ、昭和四五年の販売計画の予定として会社は金一六億六、三〇〇万円を見込んでいたにかかわらず、年度なかばに至るも容易に売上高が伸びず、在庫が大量的に蓄積の一途をたどるに至った。かかる販売不振の原因は薬剤の効用に対する社会一般の関心の変化と大手問屋筋の倒産等に伴う販路縮少等の事情にあると推測されたが、かかる事態を迎えた会社としては同年一〇月頃から右製剤の販売計画の大幅修正を余儀なくされ、会社の営業部、製造部等の間で種種検討を加えた末、AおよびBにつき大幅な生産削減を断行しその操業短縮をはかる必要があるとの結論に達し、そのため右製剤を担当する製造部製造二課第一係の人員一五名中四名の減員をはからざるを得ないこととなり、右四名の人選とその配置替えにつき会社の他部門からの増員要求と本人の適性等を勘案して検討を遂げた結果、製造部製造二課第一係の河戸桂子が製造一課第二係に、高橋紀隆がイートラス事業部に、渡辺博が製造部資材課に、控訴人が製造一課製剤研究係に、それぞれの適性が認められて配転されることとなったものであり、しかも控訴人を配置すべき右製剤研究係は将来会社の製剤技術要員としての成長を期する従業員にとっては前途ある魅力的職場である。」ことがうかがわれ、その他右配転に関する人選等につき原審が認定した諸般の事実を総合勘案すれば本件配転が恣意的で合理性を欠くものとはとうてい認めることはできない。

京都西陣郵便局員配転事件

京都西陣郵便局員配転事件

京都地裁判決 1972年8月31日

企業内で労働者は、使用者に包括的に与えられた指揮命令権に服して労働に従事しなければならないのであるが、使用者の右指揮命令権は労働者との契約により与えられたものであり、契約により定められた範囲にしか及ばないのである。配置換についても、右指揮命令権の一種として、労働契約により提供すべきものと定められた範囲内において、具体的、個別的に労働者の提供すべき労働の種類、態様、場所等を決定する一方的意思表示であり、右意思表示により、使用者と労働者の間には具体的、個別的な権利義務関係が形成されるのである。ただ、配転命令が、当初の労働契約により定められた範囲を逸脱する場合には、右のような効果は生ぜず、その命令は、労働契約の変更の申出として、相手方の労働者が、それに同意した場合にのみ有効となるのである。
 本件配転命令は原告に対し西陣郵便局集配課計画係から同郵便局郵便課通常係に勤務の変更を命ずるものであるが、これは右にみた当初の労働契約の範囲内のものであることは明らかであり、当初の労働契約締結に際し、労働場所を特定したり、配置換に原告の同意を要する特約をしたなどの特段の事情は認められないから、結局本件配転命令には原告の同意を要しないことになる。
 よって、本件配転命令は原告の同意がないから無効であるとの原告の主張は採用できない。

三興製紙事件

三興製紙事件

名古屋高裁判決 1970年10月20日

控訴会社は前記労働協約第一七条に「本人の意向を考慮して」とあるのは、発令前にあらかじめ本人の意向を聞きこれを確めるという趣旨ではなく、人事管理の任に当る者が従業員の平素の勤務などを通じて知り得た範囲での本人の意向を念頭に置き会社の業務の都合によって公平に人事異動を行うという趣旨であるとの解釈のもとに従来から人事の異動を発令するに当りあらかじめ発令前に本人の意向を聞くという取扱いをせず、前述の趣旨で慎重に検討して人事の発令をなし、発令に対して異議ある場合はその理由を聞き、考慮すべき正当の事由あるときは再考するが、これに該当しないときは発令どおりの人事を行うという方針に基づき人事異動を行って来た(控訴会社のこの取扱いについては従来組合から格別の異議の申出でもなかった)ものであって、本件配転についても従来の取扱いと同様右の方針に基づきこれを行ったもので、被控訴人の場合だけ本人の意向を全く無視して例外的な取扱いをしたものではないことが疏明される。そして前記労働協約第一七条に「本人の意向を考慮して」とある条項についての控訴会社の前述解釈は妥当なものとしてこれを是認できる。従って控訴会社が本件配転命令の発令をするにつきあらかじめ被控訴人の意向を聞かずに行ったことを以て労働協約第一七条にいう本人の意向を無視した違法のものということはできず、この点に関する被控訴人の主張は採用できない。

日野自動車事件

日野自動車事件

東京高裁判決 1968年4月24日

〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 一般に労働者をその職種を定めて雇い入れたときは、労働契約上労働者の提供すべき労務の種類内容がこれにより特定されることになり、爾後の職種の変更は、当事者双方の明示もしくは黙示の合意によるべく、使用者がその一方的命令により労働者に対し他の職種への異動を命じ、異種の労務を要求することはできないものである。
 〔解雇―解雇の自由〕
 期間の定めのない労働契約は、市民法原理に基づけば、各当事者がいつでも自由に(ただし労働基準法第一九条、第二〇条等の規制に従って)これを解約できることとなるが、しかしこの原則を貫徹するときは当然に労働者の生存権、労働権と鋭く対立する結果となる。とくにわが国の労働関係は一般に終身雇傭を半ば当然の前提としている関係上、解雇は直接に労働者の生活をおびやかし、労働関係の安定を害すること顕著であり、これに対処するに労働者側の団結の力のみをもってするのでは必ずしも十分とはいいがたい。
 労働関係が継続的法律関係として社会的に高度の安定性を要求されることにかんがみると、当事者の自由対等を前提とした市民法上の雇傭契約における解雇の自由は、労働法原理によって規律される労働契約関係(従属労働関係)においては、解釈上おのずから原理的修正をうけ、解雇には合理的にみて首肯するに足る相当な理由の存在を必要とし、これのない解雇は許されないものと解してよいと思われる(もっともこのことは、解雇自由の原則自体は一応否定しないで、ただ理由のない解雇は解雇権の濫用として抑制する理論をとっても、実質的に大差はなく、立証責任の点は別として、結果的には殆んど同じ結論を導くことになろう)。ともあれ本件では、控訴人の示した理由が不当であり、ほかに然るべき理由もないので、かかる恣意的な解雇は無効と解するほかはない。

大日本紡績事件

大日本紡績事件

東京地裁決定 1956年7月2日

労働民例集7巻4号621頁/時報85号22頁/労経速報215号2頁

一般に企業にあっては、企業施設と労働力とが有機的に統一して構成されていて、労働者は企業の効率的運営に寄与するため労働力の提供を約諾しているのが通例であるから、使用者は、この企業を運営するため、労働力を按配して使用する権能を有するわけである。従って使用者は、労働者との間の配置転換をなさない旨等の特別の合意がない限り、労働契約の趣旨に従って、労働者に対し、配置転換又は他の職場における作業の応援命令をなし得るのであり、これが法令に違反し、又は著しく不当なものでない限り、労働者はこれに服すべき雇用契約上の義務を有する。そして前認定の事実に徴すれば、被申請人会社の申請人に対してなした前記業務命令は法令に違反するもの又は著しく不当なものと認めることはできないし、かつ被申請人会社は申請人に対し、夏布団の作成完了までの間臨時の措置として布団場に応援に赴くよう命じたのにもかかわらず、申請人は不満であると表明するのみでその他に何ら合理的な理由を明示することなく、これを拒否し、遂には作業の遂行に支障を生ぜしめたものであるから、申請人の右所為は、雇用契約上の重大な業務違反というべく、右協約にいう「已むをえない業務上の都合によるとき」に該当する。もつとも申請人が当初保母として採用されながら間もなく労務庶務係に配転され、次で布団場の作業の応援を命ぜられたのであるから、労働契約の趣旨に照し布団場の作業をなすことは申請人の予期しないところであってこれに不満を抱くことは諒察するに難くないけれども、労務庶務係への配転については特に反対を表明した疎明はないし、また作業の都合上臨時的に布団場の応援作業に従事することが著しく不当のものがないことは前記認定の通りであるから自己の意に満たなかったであろうことは首肯しえても、その故に右の業務命令を拒否すべき正当の事由あるものということはできない。

東洋酸素事件

東洋酸素事件

横浜地川崎支決定 1967年10月30日

〔労働契約―労働契約上の権利義務―債務の本旨に従った労務の提供〕
 申請人らはいずれも本件業務命令が発せられた昭和四二年二月二六日の当初から右命令に従わず、所属係に変更があったにもかかわらず指示された係に移動せず、また、勤務直に変更がない者でも具体的作業指示に従っていない事実が疎明される。申請人らは、従前どおり出勤して労務を提供しているというが、右業務命令に従った労務の提供がない以上、従前どおり出勤した一事をもって、直ちに債務の本旨に従った労務の提供があったということはできない。
 (五)従って、前記業務命令を無視し、命令前と同様にした労務の提供を債務の本旨に従った労務の提供であるとして、これに対する賃金の支払を求める本件申請は、被保全権利たる賃金債権の発生を認められず、その疎明の不足を保証をもって補わせるのは相当でない。
 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 従来被申請会社においては転職」とは職種の転換を意味するものと解し、たとえば、職種を指定して採用する場合(タイピスト、電話交換手、自動車運転手、小使等)は、これらをそれぞれ一つの職種とし、その他の場合にあっては、現場係(生産係)と事務係(管理係)を各一つの職種とみて、これら相互の移動、変更を「転職」として取扱ってきたこと、また「職場の変更」とは、実際の就業場所の変更(たとえば同一課内の係の変更)というよりは、むしろ同一事業所内における職制上の区分に従った所属変更を意味するものと解し、たとえば総務課から労務課へ、製造一課管理係から同二課管理係への配置替えの如く課の変更を伴う場合を「職場の変更」として取扱ってきたことがそれぞれ疎明され、右の解釈、取扱は妥当なものと認めることができる。しかして、申請人らに対する本件業務命令の内容は要するに、製造二課内生産係相互間における所属係または勤務直の変更であるところ、前掲就業規則の解釈によれば、右変更は「転職」または「職場の変更」のいずれにも該当しないことが明らかである。従って他に右変更について組合の同意を要する旨の就業規則や協約等の存在が認められない本件においては、被申請会社が組合の同意を得ることなく本件業務命令を発したとして、なんら違法、無効の点は存しない。

日本ゼオン事件

日本ゼオン事件

横浜地裁川崎支部 1973年3月20日

労働の場所、種類、態様は、賃金等の労働条件と同様労働契約の不可欠の条件と解すべきところ、前記当事者間に争いのないところと当裁判所が認定した各事実を総合して認められる、債権者等の就職時の状況、就職後の担当した業務内容、右業務を担当した期間、債権者の右就職当時債務者における前記中央研究所の組織上の位置等を総合すると、債権者等と債務者間において、債権者等を前記中央研究所研究助手(実験員)として、前記認定のとおりの債権者等の担当した実験内容をその職務内容とする旨の労働契約が締結されていたと認めるのが相当である。
 四、1 労働条件の変更に関し特別の合意が存在しない以上、使用者がこれを変更しようとするときは、原則として労働者の承諾を得る必要があり、労働者の右承諾がない限り、使用者が一方的にこれを変更することは許されないと解するのが相当である。
 2 しかして、債務者のなす転勤命令について、債権者等の承諾を必要としないとする旨の債務者と債権者等間の特別の合意の存在は、債務者側の疎明資料その他本件全疎明資料によるもこれを認めるにいたらない。
 3(一)疎明資料略によれば、債務者の就業規則第一九条において「会社は業務の都合により従業員に出張、駐在、転勤、出向・・・・を命ずることがある。従業員は正当の理由なくこれを拒むことはできない。」旨規定されていて疎明資料によれば、債権者等は就職当時債務者宛、右就業規則を遵守する旨の誓約書をそれぞれ提出していることが認められるけれども、前記一、2.において認定した各事実に照らすと、右就業規則の規定および債権等提出にかかる右誓約書の存在から、ただちに債権者等が債務者と、債務者のなす転勤命令に債権者等の承諾を必要としない旨の特別の合意をしていたとは認め難い。
 債権者等が債務者の本件転勤命令に応じなかったことを理由とする債務者の債権者等に対する右懲戒解雇の意思表示は、上来説示して来たところにしたがえば債権者等に帰責されるべきでない事由をもってなされた懲戒解雇であって、結局何等の理由のない懲戒解雇であることに帰着し権利の濫用として無効と解するほかはない。