北海道放送事件

北海道放送事件

札幌地裁判決 1964年2月25日

労働民例集15巻1号90頁

〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 第二、配置転換命令の性質
 被申請人は、配置転換命令は単なる事実行為であつてその有効無効を論じる余地はないと主張する。一般に労働契約においては、労働者は企業運営に寄与するため使用者に対し労働力を提供し、その使用を包括的に使用者に委ねるのに対し、使用者はその労働力の処分権を取得し、その裁量に従い提供された労働力を按配して使用することができるものである。すなわち当該労働契約において特に労働の種類・態様・場所についての合意がなされていない限り、これらの内容を個別的に決定し抽象的な雇傭関係を具体化する権限は使用者に委ねられており、使用者は右権限に基づいて労務の指揮として自由に-但し、労働協約に定めがあるときはその基準に従つて、-具体的個別的にその内容を決定することができる。配置転換・転勤等の人事異動は使用者の有する右のような権限に基づく命令であつて、それは使用者がさきに自ら決定していた労働契約の具体的個別的内容を一方的に変更する行為というべく、その意味において一種の形成行為と解するのが相当である。したがつて、それが労働契約その他に定められた有効要件を備えていないときは命令の無効を来たすことになるといわなければならない。被申請人の右主張は採用することができない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 そこで右違反の効果について考察すると、労働協約第七条の規定のうち配置転換に関する部分は労働者の企業内における地位、職務内容の得喪変更に関する規定として労働条件事項の性格を有するものと解される。したがつて右はいわゆる労働協約の規範的部分に属するものというべきであるから、これに違反した行為の効力は否定されなければならない。そうすると、労働協約第七条の配置転換に関する部分に違反した本件配置転換命令は無効であるというべきである。

西日本旅客鉄道事件

西日本旅客鉄道事件

岡山地裁判決  1991年7月10日

労働民例集42巻4号557頁/タイムズ789号166頁/労働判例618号77頁

〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 被告は、本件命令が従業員の配置転換命令ではなく、現場長による職務内容の指定替えにすぎない旨主張するところ、成立に争いのない乙第一、第二号証、証人徳田伸一の証言によれば、本件命令は、本件就業規則第四八条、本件支社管理規程別表第4(現場長の専決事項とされる部下社員の勤務割りの指定)に基づいて発令されているものの、本件命令によって原告の職務内容及び勤務場所が、倉敷駅構内における物品販売から倉敷駅外にある本件踏切の踏切看守に変更されており、右変更の前後でその職務内容及び勤務場所について実質的な差異があるうえ、右変更がある程度長期間にわたるものであると考えられることからすると、本件命令は配置転換命令に該当するというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 本件命令が人事・業務上の権限の濫用であるかにつき判断するに、前記認定事実によれば、昭和六二年九月初め頃までには本件踏切の看守に二名の欠員の生じることが被告に判明しており、本件命令は、右欠員を補充する業務上の必要に基づいて実施されたものであり、対象者を選定するに当っても、予め上司の助役が三名の候補者を選定したうえ、原告の性格、A店における仕事振り、過去に運転適性検査に合格していたことから再度右検査に合格することは確実であること、事業所制発足に伴い、原告の職務内容を変える必要があったことなどを考慮して原告を踏切看守として発令する旨を被告内部で決定しているのであり、しかも、右内部決定は、同月一〇日過ぎ頃までに行われていることから、本件作文の提出をめぐる同月一六日の駅長室隣室における原告とのやりとり以前のものであると認められるので、原告を踏切看守として選定する過程や人選に不合理な点は見受けられず、被告に報復等の不当な動機、目的があったとも解されない。
 してみると本件命令が人事権、業務命令権の裁量を逸脱したものであるとはいえないから、本件命令が無効であるとの原告の主張は理由がない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 前記認定事実によれば、被告は、民営化後間もなくの時期に、従業員の経営参画意欲の高揚を図ることを目的として社員意見発表会を企画し、このため予め題材を定めて全従業員を対象に作文を募集したところ、原告は右題材とはかけ離れた右発表会や作文募集に対する不満や非難を記載した本件作文を提出し、これが、昭和六二年九月一六日の駅長室隣室における原告とのやりとりの発端になっていることからすると、原告が上司に対して挑戦的ともいえる内容の本件作文を提出して上司の感情を害したうえ、右やりとりの際にも、原告自身は余り発言しなかったものの、かたくなな態度を取り続けたことが上司であるB駅長らの判示言動を誘発したというべきであり、その際におけるB駅長らの発言内容、同人らが原告の上司で原告を指導する立場にあったことをも総合的に考慮すれば、B駅長らの右言動は、社会的相当性を逸脱したものとはいえず、不法行為を構成するとは解されない。さらに、本件における作文の募集が、従業員の能力、適性の評価とは無縁に、もっぱら被告に対する忠誠心という内面的な心情を検証する目的で実施され、被告側が本件作文の提出を強要したとの原告の主張に添う事実を認めるに足りる証拠はない。

ネッスル事件

ネッスル事件

静岡地裁判決 1990年3月23日

労働民例集41巻2号347頁/時報1350号147頁/タイムズ731号150頁/労働判例567号47頁

〔労働契約-労働契約上の権利義務-自宅待機命令・出勤停止命令〕
 二 本件自宅待機命令について
 1(一) 昭和五八年六月一七日、A所長から原告に対し、本件自宅待機命令が通告されたこと、その際、A所長が、原告に、本件自宅待機命令が業務命令である旨伝えたことは、当事者間に争いがなく、
 〔中略〕
 本件自宅待機命令の発令期間中も、原告に対して給料及びボーナス等を支払っていたので、
 〔中略〕
 被告が、原告に対し、業務上の必要から、自宅待機を命ずることも、雇用契約上の労務指揮権に基づく業務命令として許されるというべきである。
 2 しかしながら、被告が、業務命令として自宅待機を命ずることができるとしても、労働関係上要請される信義則に照らし、合理的な制約に服すると解され、業務上の必要性が希薄であるにもかかわらず、自宅待機を命じあるいはその期間が不当に長期にわたる等の場合には、自宅待機命令は、違法性を有するものというべきであるから、この点につき、更に検討する。
 〔中略〕
 原告は、取引先と直接接触するセールスマンであるから、被告の信用を最も大切にしなければならない立場にあったところ、仕事の上で密接なかかわりあいがあったデモンストレーターの女性と、仕事上の立場を利用して不倫な関係を取り結ぶに至り、そのことが原因で、取引先に葉書が多数配布され被告に厳しい叱責が寄せられるなど、被告の対外的信用が大きく損なわれ、このためA所長は、取引先等への事情説明や謝罪などに奔走しなければならず、被告としては、業務上も多大な迷惑ないし損害を被ったものというべきであるから、原告にそのままセールス活動を続けさせることは業務上適当ではなく、被告が原告に自宅待機を命じたことには、相当の理由があるというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 2 労働契約違反の主張について
  (一) 原告は、原告と被告との間には、原告の就労場所について、大枠としては、東京販売事務所管内(静岡県も含む)との黙示の合意が存在し、その枠内で、具体的にどこに勤務するかは、その都度被告との合意によって決められていた旨主張するが、
 〔中略〕
 被告における転勤が、各販売事務所の管内に限られる状態が続いていたことを認めるに足る証拠はない。
  (三)
 〔中略〕
 B労働組合が、第一組合と第二組合に事実上分裂する状態になる以前である昭和五七年三月一八日に、B労働組合と被告との間で締結された労働協約の第二二条には、「会社は、業務の必要に応じ、組合員を他の事業所、工場、販売事務所又は各地の販売部署(営業所・出張所・エリア)に転勤させることがある。」との規定があり、それ以前にB労働組合と被告との間で締結されていた労働協約にも、同様の規定があったことが認められるので、当時のB労働組合の組合員は、業務上の必要に応じて転勤がありうることについては、当然了解していたというべきである。
 〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 4 権利の濫用の主張について  (一) 前記2(二)のとおり、原告と被告との間には、遅くとも、原告が昭和四九年にスリーエスセールスマンとなった時点において、業務の必要に応じて住居の変更を伴う転勤があり得るし、その範囲は、東京販売事務所の管内には限らないとの包括的な合意がなされたものと解されるので、被告は、この包括的合意に基づき、業務上の必要から、原告に転勤を命ずることは許されるというべきである。
 しかしながら、被告が、業務上の必要から、原告に対し転勤を命ずることができるとしても、労働関係上要請される信義則に照らし、合理的な制約に服することは、自宅待機命令の場合と同様である。
  (二) そこで、原告に対し、転勤を命ずる業務上の必要性があったか否かについて検討する。
(1)
 〔中略〕
 昭和五九年度に原告に支給された給与、賞与の総額は金六四五万二七三八円で、昭和六〇年度のそれは金七二五万〇〇四一円であったこと、本件自宅待機命令を継続させ、会社業務に従事しない者に右給与等を支払い続けることは、被告にとっても損失であったことが認められるところ、前記二2(三)のとおり、原告に対する本件自宅待機命令の解除と本件転勤命令の決定がなされた昭和六〇年四月の時点でも、原告は、自己のした不倫行為について何ら反省の気持ちを持ち合わせておらず、原告を、葉書事件のことを知っている静岡営業所管内の取引先へ訪問させ、あるいは静岡営業所の事務所において顧客と応対させることが相当ではない状態が続いていたのであるから、原告を静岡営業所から他の営業所へ転勤させる業務上の必要性があったというべきである。
 〔中略〕
 【3】 したがって、本件転勤命令が決定された昭和六〇年四月の時点では、それまで原告が所属していた静岡営業所は、第三地域営業部に属していたところ、第三地域営業部の下には、静岡営業所の外に、東海営業所(愛知、三重、岐阜の三県を担当)と北陸営業所(福井、石川、富山の三県を担当)があり、昭和六〇年当時、相互の人事交流は、相当頻繁に行われていたため、第三地域営業部の部長であったCは、静岡営業所で不祥事を起こした原告を他に転勤させるにあたっては、第三地域営業部内の他の営業所に転勤させるのが適当であると考えた。
 【4】 そして、当時東海営業所第一出張所に所属して三河地区を担当していたエリアセールスマンのDが、同年五月二六日付で、被告を退職することが決まっていたため、C部長は、原告を静岡営業所から東海営業所に転勤させ、右Dの後任として、三河地区のセールス活動に従事させることとし、E静岡営業所長を通じて、原告に本件転勤命令を通告した。
(3)
 〔中略〕
 原告の赴任先を東海第一出張所としたことには合理的な理由があり、結局、本件転勤命令には、業務上の必要性があったというべきである。
 (二) 次に、本件転勤命令によって、原告が受ける不利益につき検討する。
 (1) 原告は、子供の教育上、転校という事態はできるだけ避けるべきであると主張し、
 〔中略〕
 確かに、右年令の子供たちにとって、転校が与える精神的負担は少なくないと思われるが、前記(一)(1)のとおり、原告を静岡営業所管内において就業させることができない業務上の強い要請があったのであるから、原告が、家族と同居しつつ被告の業務に従事するためには、子供達の転校も止むを得なかったというべきであるし、《証拠略》によれば、
 原告は、既に家族とともに岡崎市に転居し、二人の子供は、現在それぞれ同地の高等学校や小学校に元気に通学していることが認められるから、原告を再び静岡営業所に戻し、同営業所において原告を勤務させるとすれば、かえって子供たちに再転校という二重の負担を強いることになる。
(2)
 〔中略〕
 原告が、横浜の近くに居住し、父親の面倒を見なければならないような差し迫った状態はなかったのであるし、また、仮に、原告が、父親の病気見舞いあるいは面倒を見るため横浜へ帰るとしても、岡崎と静岡ではそれほどの違いがないから、岡崎への転勤が、原告にとって著しく不都合であるとは認められない。

川崎重工業事件

川崎重工業事件

最高三小判決  1992年10月20日

労働判例618号6頁

〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうものか、又は原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

エッソ石油事件

エッソ石油事件

山口地裁決定 1989年8月31日

労働判例551号69頁/労経速報1368号12頁

〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 二 本件配転命令の効力
 前記一の事実によると、本件配転命令により、債権者が静岡に転勤するとなると、債権者には高等学校一年生の長男を始め就学中の子が三名おり、それらの者が転校しなければならない可能性もあること、債権者はその肩書地に土地付きの住宅を購入しており、その購入の際の借入金の返済が終了しておらず、その処分もままならないこと及び債務者と自主労組が協議中である境港油槽所の閉鎖問題について、債権者が自主労組側の中心となって活動しているところ、その交渉が支障を来す虞れもあること等債権者あるいは債権者が所属する自主労組に不利益が全くないとはいえない(但し、本件配転命令に関して、債務者に不当労働行為があったと一応認めるに足りる疎明資料はない。)。
 しかしながら、債権者が購入した住宅についての借入金の返済については、前記一6のとおり、債務者の援助は継続されるし、境港の油槽所の閉鎖問題の交渉についても、今までの交渉経緯はあるとしても、債権者でなければ協議ができないということまでも一応認めるに足りる疎明はない。
 また、債権者は、妻Aの腰痛症をも本件配転命令に伴う支障として主張するが、疎明資料によれば、右Aの通院は、昭和六〇年、同六一年の一時期に過ぎず、仮に、右Aに腰痛症が認められるとしても、本件配転命令の効力を左右する事情足り得ないものといわざるを得ない。
 一方、前記一の5(一)のとおり、ビジネス・カウンセラーの職務上、販売代理店との関係から、数年間の経過により配置転換をすることには合理性があり、債務者が現在の三田尻油槽所駐在員として勤務して一三年近くが経過し、前記例外を除けば、他のビジネス・カウンセラーと比べても現在の任地における勤務がきわめて長期となっていること、及び一方で配転先の横浜支店静岡営業所にも配転を予定している従業員が存在することからすると、本件配転命令は債務者の業務上必要性があると認められ、また、その配転先の決定についても、債権者の労働運動の活動に支障がないように考慮されている面もあり、さらに、前記一の3(三)のとおり、本件配転命令の手続には違法はなく、右交渉の経過の中で債権者が譲歩して希望した広島支店または同支店岡山営業所の勤務も債務者の従業員の適性配置という点からして困難である事情が存在すると考えられる。
 右によると、本件配転命令には債務者の業務上の必要性が認められるとともに、配転命令を規定した就業規則の存在をも考慮すると、右配転命令により債権者にも不利益がないとはいえないが、右債務者の業務上の必要性と比較衡量すると、本件配転命令が権利の濫用であるとは認めることはできない。

エア・インディア事件

エア・インディア事件

東京地裁判決 1992年2月27日

時報1419号116頁/タイムズ787号179頁/労働判例608号15頁

〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 1 雇用契約は、労働者がその労働力の使用を包括的に使用者に委ねるという内容を持つものであるから、使用者は、右の労働力に対する包括的処分権に基づいて、労働者に対し、職種及び勤務場所を特定して配転を命じうるのが原則であるが、労使間において、特に職種又は勤務場所を限定する明示又は黙示の合意が成立し、これが雇用契約の内容になっている場合には、その範囲を超えて配転を行うには、労働者の同意が必要であると解するのが相当である。〔中略〕
 3 次に、本件採用時における職種限定の合意が、その後失効して、本件配転命令時には、既に本件雇用契約の内容になっていなかったかどうかについて、検討する。
 (一) 前記2のとおり、本件採用時、原告と被告との間では、原告の職務をエア・ホステスに限定する旨の職種限定の合意が成立し、これが本件雇用契約の内容となっていたものと認められる。しかし、そこでもみたように、職種限定の合意が成立したといっても、エア・ホステスの業務内容の特殊性や専門性或いは特別の公的資格によって基礎づけられたものではないし、また、本件雇用契約上、原告はエア・ホステスのみの業務に従事するとか又はエア・ホステス以外の業務に従事することを要しない旨を明記した条項が定められていたわけでもないから、右職種限定の合意は、エア・ホステスについて三〇歳という通常よりも相当に低い年齢を定年年齢とする職種別定年制を採用したこととの関連において成立したもので(職種別定年制の採用が職種限定の合意を基礎づける証左の一つであることは、原告も認めている。)、しかも、黙示的な合意にとどまると解するのが相当である。このことは、本件採用時において、エア・ホステスの定年年齢いかんにかかわらず、すなわち、それが一般従業員の定年年齢と同様であると仮定した場合にも、なお原告の職種をエア・ホステスに限定する旨の職種限定の合意が成立したであろうことを認めるべき事情は存在しないこと、前述したエア・ホステスの業務内容の特殊性や専門性或いは公的資格の有無、程度及び本件雇用契約の内容を勘案すれば、原告がエア・ホステスの採用募集に応募してその試験に合格し、本件採用通知にエア・ホステスとして採用することが明記されていたというだけでは、明示的な合意として職種限定の合意が成立したものと解することはできないことによっても、裏づけられるところである。
 (二) したがって、本件雇用契約の締結時に約定されたエア・ホステスについての三〇歳の定年年齢が、その後、三五歳、四五歳、五八歳と順次延長(ただし、三六歳から四五歳までは一年毎の勤務延長)され、職種別定年制を定めた部分が変更された場合には、これとの関連において本件の職種限定の合意にも影響がありうることは、両者が同一の雇用契約の内容となっていることの当然の結果として、容易に肯認されるところである。エア・ホステスの定年年齢が三〇歳から五八歳まで順次延長され、これに伴って、原告の勤務可能な期間が本件雇用契約当初の八年から現在の三六年へと大幅に伸張したにもかかわらず、本件の職種限定の合意のみが何らの変更もなく効力を維持するものと解することは、もともと、本件の職種限定の合意は、業務内容の特殊性、専門性或いは特別の公的資格のいずれをも基礎とするものでないこと、雇用契約においては、一般的に、継続的法律関係として契約締結後の事情変更による影響を避けられないものであることを指摘するまでもなく、妥当ではないからである。
 そして、本件採用時において、エア・ホステスの定年年齢が一般従業員のそれと同様であると仮定した場合に、原告の職種をエア・ホステスに限定する旨の職種限定の合意が成立したであろうことを認めるべき事情のないことは、前記のとおりであるが、更に、この事情をも踏まえて、エア・ホステスの定年年齢を三〇歳とする職種別定年制のもとで成立した本件の職種限定の合意をその定年年齢が五八歳まで伸張した現在の法律関係のもとで事後的に評価した場合においても、それは、せいぜい当初の定年年齢である三〇歳か又はこれに近接する当分の期間について原告の職務をエア・ホステスに限定する趣旨のものとして効力を認めうるのみで、本件雇用契約の締結時から五八歳の定年年齢に達するまでの全期間にわたって効力を有する趣旨のものと解するのは相当でないというべきである。
 したがって、原告の年齢が四五歳を超え、かつ、本件雇用契約の締結時から二三年を経過した後にされた本件配転命令当時には、雇用契約締結当初に成立した職種限定の黙示的な合意は、既にその効力を失い、本件雇用契約の内容にはなっていなかったと解するのが相当である。

小金井市事件

小金井市事件

東京地裁判決 1994年6月29日

労経速報1536号12頁/労働判例665号54頁

〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 以上認定したところによると、原告は、組合の一員ではあったものの、第二次警備制度改革に関してはいわゆる主流派に反対の立場に立ち、試案を提示するなどして積極的な活動を展開しており、また、原告の希望が容れられないで本件配置換が行われたというのである。しかし、他方、本件配置換は、被告と組合との間で合意された第二次警備制度改革に伴う警備員数の見直しの一環として、剰員となった施設警備員九名を他の職種に配置換する必要が生じたことから行われたものであり、この際、無断欠勤など従前の原告の勤務状況から原告は単独勤務態勢である施設警備員には不適当であり、また、他の技能職に配置換するにしても、右の理由から代替勤務要員の確保に配慮が必要な学校用務に配置換するのは不適当であって、残る土木作業と清掃作業のうち、原告の年齢、肉体的な条件等を勘案して清掃作業に配置換するのが相当であると判断したというのである。
 そうすると、本件配置換には合理的理由があるということができ、本件配置換を含む人事異動案を作成した管財課警備担当主事が、当時組合主流派に属し、同人の上司である同課警備担当主査は組合執行委員長の地位にあった(人証略)ことをもって、右異動案自体が直ちに原告の主張するように差別的意思ないし原告の組合活動を嫌悪したことによる不当なものであったということはできず、本件配置換の合理性を疑わせることにはならないというべきである。
 そして、他に本件配置換が原告らの主張するような差別的意思あるいは不当労働行為意思によることを認めるに足りる証拠はないから、この点に関する原告の主張も理由がない。

チェース・マンハッタン銀行事件

チェース・マンハッタン銀行事件

大阪地裁決定  1991年4月12日

タイムズ768号128頁/労経速報1427号17頁/労働判例588号6頁

〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 申請人らは、まず、いわゆる資格制度が導入される昭和五〇年四月までは大阪支店においては定期採用がなく、欠員が生じたときと増員時に随時人員を募集する不定期採用制度がとられていたところ、申請人X1及び同X2は資格制度導入後の採用であるが不定期採用者であり、それ以外の申請人らは、いずれもそれ以前の入行であって、トップマネージメントへの道は前提とされていなかったから、勤務場所も大阪支店に限定されていた旨主張する。しかし、いわゆる資格制度は、採用後における昇格等の人事考課のための資格区分制度にすぎず、この制度の導入により正規社員の採用制度がこれまでと根本的に異なることになったとはにわかに認めがたい。また、不定期採用者か定期採用者かの差によって、それぞれ適用される就業規則が異なるなどその労働条件に制度上の区別があるわけではなく、不定期採用者には一律にトップマネージメントへの道が前提とされていなかったとの申請人ら主張事実は、これを一応認めるに足りる疎明もない。したがって、申請人らは他の正規社員と同様いずれも在日支店の就業規則の適用を受け、被申請人との間でこれと同一内容の労働契約関係を成立させているというべきである(申請人らが右就業規則の適用を受けること自体は、申請人らもとくに争っていない。)そして、右就業規則は、被申請人にその判断に基づき従業員に対し勤務場所及び担当職務を変更する権限を与え、従業員はこれに従うべきことを定めており、被申請人がこれらの権限を行使するに際し当該従業員ないし組合の同意を得ることを義務付ける規定はない。申請人らは、配転に関する就業規則の定めに、転勤が行員の最大利益の為になされるとの文言があることを根拠に、同規定を、転勤が当該従業員の同意の下でなされ得ると解釈すべきである旨主張するが、右のとおり、同規定には転勤は銀行の判断により行われる旨が明記され、右判断が「行員並びに銀行双方の最大利益の為」(行員のみの最大利益のためではない。)という基準に従うべきものとしても、これ自体きわめて抽象的な規準であって、かかる文言のみを根拠に右規定を申請人ら主張のように解釈することは到底できない。そして、被申請人は、右就業規則に基づき、同一職場内での配転換えはもとより、実際にしばしば基地内支店を含む各支店間の配転を実施しており、その際、個々の従業員の個別的な同意がなければ配置換えないし配転を実施しない旨の労使慣行があったとする〈証拠〉の記載は信用できず、他にかかる労使慣行の存在を一応認めるに足りる疎明もない。
 また、申請人らは、大阪支店により現地採用された従業員であり、各自の採用の際の担当者の言動からして、いずれも勤務場所が大阪支店に限定された労働契約を締結した旨主張する。しかし、大阪支店に「現地採用」されたとはいっても、その内容は、その採用手続が大阪支店の担当者によりとられたというにすぎず、かかる従業員も、他の形態で採用された従業員と同様、その採用行為及びその後の処遇等についてはすべて中央人事部の承認、管理のもとに行われ、採用形態如何によってその後の担当職務、昇格等の労働条件が異なっていたわけでもない。したがって、大阪支店の担当者が採用手続をとった従業員のみについて、他の従業員と異なり勤務場所を大阪支店に限定する旨の労働契約を締結したというのは不合理であり、仮に申請人X3が当時の担当者から転勤はない旨の説明を受けていたとしても、これをもって被申請人が同申請人につき就業規則の配転条項の適用を特に除外し、勤務場所を大阪支店に限定する趣旨の労働契約を締結したとみることはできない。申請人X3以外の申請人らについては、そもそも面接の際に担当者が転勤の有無について触れなかったというにすぎない。また、申請人X4についても、職安の求人票記載の事業所名が大阪支店とされているものの、前記諸事情及び〈証拠〉の記載に照らすと、右求人票の記載のみを根拠に同申請人が勤務場所を大阪支店に限定する労働契約を締結したとはいえない。
 以上のとおり、申請人らと被申請人との労働契約は、いずれもその勤務場所を大阪支店に限定する趣旨の合意が含まれているものではないというべきであり、このほか、申請人らの入行前の経歴、担当職務歴及び東京支店において予定されている申請人らの職種等前記認定の諸事実にかんがみても、本件配転命令が申請人らと被申請人との間の労働契約に違反し無効であるということはできない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 右のとおり、被申請人は、就業規則中の配転条項に基づき、一般的に申請人ら従業員に対し配転命令を行う権限を有するものであるが、もとよりこの権限の行使は無制限に許容されるものではなく、具体的事案において配転の業務上の必要性の程度とその配転によって労働者が被る不利益の程度とを比較衡量し、その他諸般の事情を考慮した上、業務上の必要性に比べて労働者の被る不利益ないし損害が著しく大きい場合には、当該配転命令は権利の濫用として無効になる場合があるというべきである。
 〔中略〕
 以上のとおり、本件配転命令は、申請人らに対しいずれも相当の不利益を及ぼすものであることは否定できないものの、被申請人が本件配転命令をするに至った業務上の必要性も前記のとおり、十分にこれを認めることができ、申請人らが被る右不利益は、いずれも右業務上の必要性を上回るまでには至っていないというべきである。
 なお、申請人らは、本件配転命令が申請人らにとって応じがたい無理な配転命令であって、これに応じないときは、特別退職プログラムに応じて退職することを強制されているから、本件配転命令は、実質的には指名による整理解雇に等しく、その効力の有無は、整理解雇の法理に照らして判断すべきところ、本件配転命令は、整理解雇の要件である希望退職募集の手続の履践及び組合との誠実な協議も尽くしておらず、権利の濫用であると主張する。しかし、本件配転命令が申請人らにとって客観的に全く応じがたいものといえないことは右2において述べたとおりであって、被申請人が特別退職プログラムを用意したのは、本件配転命令に応じるか、またはある程度有利な条件で退職するかを申請人らの自由な選択に委ねたものといえるから、本件配転命令を整理解雇と同視し、これを前提に本件においてその要件が満たされていないとする申請人らの右主張は、その前提において失当であり、採用できない。

島根県(町立中村小学校)事件

島根県(町立中村小学校)事件

広島高裁松江支部 1991年5月31日

労働判例593号42頁

〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 昭和六二年度定期人事異動期には、控訴人は、島後地区小学校一三校の校長の中で、ただ一人現任校の勤務が七年に及ぶ永年勤続者であり、全県下に適用されるべく県教委の定めた前記人事異動方針細則によっても異動対象者の筆頭にあったもので、控訴人がA小学校からの転補人事を受けたことに不合理な転補は一切存しない。そして、島後教育委員会所管の一三校の小学校のうち、昭和六二年度の定期人事異動期に確実に校長職が空くのは、校長が定年退職するB小学校のみであった。B小学校は、控訴人が転補を希望する西郷町の中心部に位置する学校であったが、日本学校体育研究連合会、島根県学校体育研究連合会主催の島根県保健体育優良学校を目指して全校的な取組をしている学校であり、それまでの同校の学校経営の経過や実情に照らし、同校に控訴人を転補した場合にはA小学校と同様に控訴人の対外競技等の精選活動を理解しない保護者との軋轢により混乱を招くことが具体的に予想できた。そこで、県教委は、B小学校校長の後任に都万村立C小学校のD校長(現任校勤務が五年になり、年齢は控訴人と同じ。)を、また、その後任にE小学校のF校長を各転任させ、E小学校の校長に控訴人を転補するのが適材適所の原則に合致するものと判断したものである。前示のとおり、本件転補処分が隠岐郡の小・中学校校長人事としては少数に属する形態であったこと、これまでの人事異動ではA小学校の校長は少なくとも同規模以上の学校へ配置替えされていることを考慮しても、本件転補に至る前示一連の経過に、E小学校の所在地、その規模、控訴人の学校制度上の地位、待遇に変更がないこと等を総合勘案すると、本件転補処分が人事権を濫用したものとはとうていいえない。

福原学園事件

福原学園事件

福岡地裁小倉支部決定 1987年11月30日

労働判例510号51頁

〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 右認定事実によれば、申請人は、本件転任命令発令までに、A高校長としての在任期間が既に六年余りに達していたこと、昭和五九年一一月に公となり、文部省の指導を受けて、理事会全員退陣にまで発展したB短期大学の不正経理については、申請人にも、少なくとも法人事務局長としての監督責任があるというべきこと、付属高校の施設設備の改善について、申請人のA高校における経験が生かせるものと期待されたことが認められるから、本件転任命令には、被申請人内部における人事の刷新並びにA高校長及び付属高校長への人材登用との観点から、被申請人の人事配置上、十分な必要性があったものということができる。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 以上のとおり、本件転任命令は、被申請人の人事配置上十分な必要性があり、それ自体A高校及び付属高校の教育活動を何ら阻害するものでなく、しかも、申請人にとり著しく不利益を課するものでもないから、被申請人の裁量権の範囲内の行為と認められ、適法、かつ、有効な命令であったと認められる。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 1 疎明によれば、抗弁2の(一)ないし(三)の各事実がいずれも認められる。また、本件解雇の理由については、疎明及び弁論の全趣旨によって、申請人が、【1】付属高校長に命じる旨の被申請人の命令に従わず、【2】A高校長であると主張して、同高校の校長室に入室してこれを占拠しあるいは教員室内の校長用机に着席して、被申請人からの退去要請にも応じようとせず、被申請人の業務及び新たに着任したC新校長の業務を妨害したものとして、制裁規程七条一号(故なく学園の業務上の指示、命令に服従せず、又は学園の秩序を乱した)及び一四号(故意に学園の業務又は他人の業務を妨げ、又は妨げようとした)に当たるとしたこと、処分決定の際、申請人が被申請人のキャンパス内に所有する土地(被申請人学園の通用門及び駐車場用地)につき本件転任命令発令後の昭和六一年五月二八日債権額金二億五〇〇〇万円の抵当権を設定し、次いで、同月二九日売買予約を原因とする所有権(共有者全員持分全部)移転請求権仮登記を経由したことも、事情として加味されたことが認められる。